『地図で楽しむすごい埼玉』(洋泉社、2018.12発行)という本をめくっていたら、驚きの事実を発見しました。
この本には、埼玉の観光について書かれたページがあります。
川越は言わずと知れた観光地、もちろんここでも言及されています。
川越氷川祭の山車行事がユネスコ無形文化遺産に指定されたこともあり、川越が外国人から人気を集め、過去最高の約704万人を記録。
『地図で楽しむすごい埼玉』p.118より
しかし、続けてこのように記載されているのです。
「越谷市はレイクタウン人気に支えられ観光客数でトップ」
え?!越谷がトップなの?
越谷に全く観光地のイメージはないので少し驚きつつ、データの方を見ると、なんと圧巻の5556万人を記録!
川越の約8倍の観光客数です。
川越って実は観光地として大したことないのか?
いや、住民が悲鳴を上げるくらい観光客が押し寄せてきてるんだから、そんなことはないはず。
一体どういうことなのか。少し調べてみました。
川越市と越谷市の政策の中の観光の位置づけ
川越と言えば、蔵造りの街並み、時の鐘、菓子屋横丁・・・といくつもの観光地が頭に浮かびます。
越谷と言えば・・・観光地と呼べるようなものは浮かんできません。
それでも実は自分が知らないだけで、越谷は立派な観光地。。ということもあるかもしれません。
まずは、それぞれの市で観光がどう位置付けられているのかを少し調べてみました。
川越市では「第二次川越市観光振興計画」が、越谷市では「越谷市観光振興計画」が、現在の主要な観光政策文書です。
2つの計画に目を通してみると、ある共通した分析が掲載されています。
それは、SWOTという外部環境と内部環境を分析するフレームワークを使った分析です。
それぞれの市(の職員)が、当該自治体の観光をどのように捉えているか、わかりやすく記載されているので、以下に転載します。
川越市のSWOT分析

「第二次川越市観光振興計画」p.18より

「越谷市観光振興計画」p.26より
まず、川越市のSWOTでは、強みとして、「豊富な観光資源」が挙げられていることから、観光地としての認識があることがわかります。
次に、越谷市のSWOTでは、弱みとして、「特徴のある有名観光資源の不足」「”こしがや”独自のブランドイメージの不足」が挙げられていることから、どうも観光地としての魅力の少なさを課題として捉えているようです。
やはり、私の実感としての、川越と越谷の観光のイメージと、それぞれの自治体が捉える自身の観光地としてのイメージは、そう離れてはいないようです。
それでは、なぜ、観光客数に8倍もの開きがあるのか。
このデータを見たときから気になっていた、観光客数の数え方について調べてみました。
観光客数はどのように数えているのか?
そもそも、観光客数ってどうやって調べているんでしょうか?
その人が観光客なのか、地元の人なのか、ぱっと見ではわからないこともありますよね?
観光客数の数え方については、観光庁が、「観光入込客統計に関する共通基準」という基準を出しています。
当基準の「はじめに」では、
「都道府県における観光入込客や観光消費額に関しては、従来、多くの地方自治体における調査手法が異なっていたことから、地域間で比較可能な統計として整備すべく、共通の把握方法による調査の導入が求められていたところ」
「本共通基準に則った調査を実施することで、都道府県レベルの観光入込客数、観光消費
額について、季節ごとの把握・比較が可能となるものであり、地域における観光統計の整
備の大きな一歩となる」
と記されています。
この基準が策定されたのが、平成21年12月ということですから、きちんとした統計がとられるようになったのは案外最近のことなんですね。
さて、観光客数の調査としては、「観光地点等入込客数調査(全数調査)」が定められています。
これは、「都道府県内の観光地点及び行祭事・イベントに訪れた人数を、観光地点の管理者、行祭事・イベントの実施者等に四半期ごとに報告を求め調査するもの」です。
自治体はまず、観測地点名簿の整理を行うことで、何が、観光地点と行祭事・イベントに該当するかを判断します。
そして、観光地点及び行祭事・イベントに訪れた人数を、観光地点等の管理者、行祭事・イベントの実施者等に月別に報告を求め調査することによって、観光客数が割り出されていきます。
ここで重要になってくるのは、「観光地点」と「行祭事・イベント」とは何かということです。
これは、観光客数を数えるための、基点となるものと言えます。
もちろん、なんでもかんでも観光地点にしていいということではありません。
「共通基準」には、以下のように記載されています。
①非日常利用が多い(月1回以上の頻度で訪問する人数の割合が半分未満)と判断される地点であること。
②観光入込客数が適切に把握できる地点であること。
③前年の観光入込客数が年間1万人以上、若しくは前年の特定月の観光入込客数が5千人以上であること。
続けて、観光地点と、行祭事・イベントについての分類一覧表が掲載されています。
このなかで、観光地点に該当するものとして「商業施設」が挙げられており、備考欄には、「郊外ショッピングセンター、駅前商店街等で日常利用が大半を占めるものは含めない」と記されています。
おや?と思うところがあります。
冒頭に挙げた書籍にも記載されている通り、越谷市はレイクタウンを観光地点名簿に登録しているはずです。
「越谷市観光振興計画」には以下のように記載されています。
越谷レイクタウンにある「イオンレイクタウン」には年間約5,000万人の買物客が訪れます。年間約5,000万人という数字は、日本一有名なテーマパークの一つである東京ディズニーリゾートを上回る規模であり、多くの世界遺産があり、日本を代表する有名観光地である京都に迫る規模です。
「越谷市観光振興計画」p.37より
イオンレイクタウンのみで、東京ディズニーリゾートを上回り、京都に迫る規模というのには、驚きというほかありませんが、この数には日常利用がかなり含まれているのではないでしょうか?
もちろん、自治体がきちんと調べたのでしょうから、非日常利用が多い(月1回以上の頻度で訪問する人数の割合が半分未満)、「観光地点」ではあるのでしょうが、これを神社・仏閣や海・山・自然と同じに扱うのは、すこしアンフェアな気もします。
地元住民が愚痴をこぼすほど観光客に溢れかえる川越市と、かたや観光地としての魅力を自他共に認めていない越谷市。
ところが観光客数は、越谷市が川越市のおよそ8倍という不可思議な現象が起きています。
結局のところ、「観光客数」の多い少ないは、一つの目安であって、その地域・自治体が観光地であるかどうかの絶対的な基準ではないのでは?と思います。
ひとつの数字だけで判断せず、様々なデータを総合的に見ていく必要がある。。物事をきちんと捉えていくのは難しいですね(^^)/