活版印刷三日月堂シリーズ番外編「空色の冊子」~宮沢賢治や装丁のことなど

昨年8月に「雲の日記帳」が刊行され4巻で完結した「活版印刷三日月堂」シリーズの番外編「空色の冊子」が12月5日に刊行されました。

「活版印刷三日月堂 空色の冊子」”本編”との違いと共通点

活版印刷三日月堂 空色の冊子

”番外編”の「空色の冊子」では、過去4冊にわたって刊行された”本編”とは異なり、物語の過去に焦点が当てられています。

登場人物は、”本編”主人公である弓子の父母や祖父母が多く登場していて、弓子が活版印刷三日月堂を再開する前のお話が中心です。

また、”本編”の4冊が、1冊につき4話収録だったのと異なり、「空色の冊子」には6つの作品が収録されています。

「空色の冊子」収録作品

・・・ヒーローたちの記念写真
・・・星と暗闇
・・・届かない手紙
・・・ひこうき雲
・・・最後のカレンダー
・・・空色の冊子
・・・引越の日

このうち、弓子の父母である修平とカナコの物語「星と暗闇」は、印刷博物館とのコラボ企画の際に活版の冊子として書き下ろした作品を改稿したものです。

また、弓子の祖母・静子と弓子の物語「届かない手紙」は、『大人の科学マガジン 小さな活版印刷機』に収録されたものを改稿したものとのことです。

さて、「空色の冊子」に限らずですが、このシリーズの収録作品は、それぞれ扉ページに印象的な写真が使われています。

”本編”の方では、活字やスダレケース、印刷機など、活版印刷に関わる写真が使われているのに対して、「空色の冊子」では、それぞれのお話に合わせて、星座早見表やレコード盤、引っ越し用の段ボールなどの写真が掲載されています。

扉写真

ただ、”本編”と共通しているのは、それらにノスタルジックな”モノ”としての感触が投影されていることです。

異なる被写体であっても、共通の感覚を起こさせてくれることに、写真家の技量を感じます。

ちなみにこれらの写真を撮影したのは帆刈一哉さんという、広告、書籍、雑誌などの分野で活動なさっているカメラマンです。


「空色の冊子」装丁のすばらしさ

各作品の扉ページ写真の素晴らしさもさることながら、「空色の冊子」では、その初版のものでしか触れることの出来ない素晴らしい装丁が施されています。

それは、活版印刷ページが1枚、巻頭に挿入されていることです。

初版限定巻頭活版印刷扉

写真ではなかなか伝わりづらいかもしれませんが、現物を手に取ると、違いは明瞭です。

つるつるとした通常の印刷とは異なる、手触りの感触が残ります。

また、外表紙をめくると、いきなりこの活版印刷のページが出てくるのも素晴らしいと感じました。

ちなみにこの本の奥付には、

フォーマットデザイン 緒方修一
組版・校閲 株式会社鷗来堂
印刷・製版 凸版印刷株式会社

とありますが、活版印刷ページ裏には、

活字組版 三木弘志(弘陽)
印刷 太陽印刷株式会社

と記載があり、別の会社・人が対応しているという手の込んだ作りです。

さっきから、なんで装丁のことばかりこだわって書いているのかというと、つい先日、菊池信義という装丁家の講演を聞きに行って感銘を受けたからなんです。

菊池信義さんは、知る人ぞ知る装丁の第一人者で、1万5千冊の本を装丁してきたという生ける伝説のような人です。

先日の講演で、菊池さんは、本の持つ”時間”ということを強調していらっしゃいました。

「本の持つ”時間”」とはどういうことか。

読者が本を開く。

すると見返しが現れる。

その見返しをめくる。すると本の扉が現れる。

この過程では瞬間ではあるが、ある時間が経過しており、その時間を考えた装丁を行っているということを、古井由吉さんの小説『槿』の装丁などを例に、お話されていました。

今回、「空色の冊子」をめくって活版印刷ページを目にした時、このお話を思い出しました。

同時にそれは、映画館でみる映画の予告編のようなわくわくとした気持ちと、なんともいえない厳かな気持ちを呼び起こすものでした。

この装丁を考えた人に、敬意を表したいとさえ思います。

なお、なんで菊池信義さんの講演が行われたのかというと、菊池さんを題材にした映画、「つつんで、ひらいて」が公開されているからなんですね。

映画『つつんで、ひらいて』公式サイト

まだ私は見ていませんが、川越スカラ座でも1月に上映されるので、心待ちにしています。


「活版印刷三日月堂」と宮沢賢治

「活版印刷三日月堂」シリーズには、宮沢賢治のことがよく出てきます。

「銀河鉄道の夜」では、ジョバンニが、学校帰りに、活版所で働くシーンがあります。

ジョバンニは、活版所で文選(ぶんせん)という、活字を拾う仕事をしています。

「活版印刷三日月堂」の登場人物たちが、よく「活版印刷」を「銀河鉄道の夜」に紐づけて語っているように、いまや日本人にとって触れることも少なくなった「活版印刷」の知識は、「銀河鉄道の夜」を通して知られるようになったと言ってしまっては、言いすぎでしょうか?

このように、活版印刷との紐づけで、宮沢賢治が「活版印刷三日月堂」に出てくるのは、不思議ではないのですが、きっと作者は、それ以前に宮沢賢治を愛読しているのだと思います。

「空色の冊子」の登場人物を通して、宮沢賢治について、以下のように語らせています。

賢治さんは不思議な人なんですよね。空も、木や草も、賢治さんの作品のなかでは、これまで見たことのないものになる。人の目を通して見たのとはまるっきりちがう。ほかの星からやってきた人みたいで、読んでいると心がざわざわする。

「星と暗闇」より

私も、中高生のころ夢中になった宮沢賢治の愛読者の一人として、この文章にとても共感しました。



1月5日には、「活版印刷三日月堂」”番外編”第二弾「小さな折り紙」が刊行されます。

二カ月連続の大盤振る舞いです。

さらに、川越では、1月25日(土)に蓮馨寺講堂にて、著者ほしおさなえ先生の講演と、朗読家鈴木千秋氏による「空色の冊子」特別バージョンの朗読会が開催されます。

「學のまちkawagoe」による開催です。

ご興味ある方はぜひお越しになってみてはいかがでしょうか。


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